SS置き場

短いもの詰めてます。

ある日、機関室にて

ホーク+レッド

「——父さん、これってさ……あ」
しまった、と慌てて口元を覆ったが、遅かった。無意識のうちに口走った言葉は、隣で制御盤を操作していた偉丈夫の耳に、しっかりと届いていたようだ。
ホークはピタリと作業の手を止め、こちらに顔を向ける。名前の通りに、鷹を思わせる鋭い目をわずかに見開くと、すぐにいつもの険しい視線を浮かべて、再びモニターとにらめっこを始めた。
「……どうした」
カチカチとボタンを押す小気味のいい音を立てながら、ホークは何事もなかったかのように作業を続ける。怒っている、というわけではないのが救いだが、なんとなく気恥ずかしさが堪えられなくて、思わず口を開いた。
「その、今のはさ。こう……口が滑った、というか」
裏返った声でしどろもどろに言い訳をしたが、一文字に引き結ばれた唇は、ぴくりとも動かない。機関室に気まずい沈黙が立ち込めた。
ムズムズした気持ちのまま顔を伏せていると、小さく咳ばらいをする音がした。
「……休憩だ。五分経ったら戻る」
静かな口調で呟くと、ホークは俺の肩をポンと叩いた。くるりとこちらに背を向けると、ぽかんと口を開けたままの俺を一人残して、足早に機関室を去っていった。
気のせいだったろうか。去り際に微かに見えた横顔が、少しだけ嬉しそうで、どこか寂し気だったのは。

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