ヒューズ×レッドSS置き場

短いもの詰めてます。

温もりと帰り道

2024/11/10 サガオル8無配

「いやー、寒くなったよな」
傾き始めた夕陽の照らす帰り道、隣を歩いていたヒューズが鼻を啜った。先日まで燦々と輝く太陽が地面をじりじりと照らしていたのが嘘だったように、ここ最近のシュライクは肌寒い日が続いている。陽の光を受けて青々とした葉を揺らしていた街路樹も、段々と鮮やかな赤や黄へと色を変え、少し遅い秋の訪れを告げていた。
「もうそんな季節なんだな。この前まであんなに暑かったのに」
吹き抜けた冷たい風に、くしゃみをひとつする。まだ平気かと思っていたが、パーカー一枚で出歩くにはさすがに堪える季節となったようだ。
「ったく、そんな薄着してるからだろ。ほれ」
ヒューズは自分が来ていたジャケットを脱ぐと、ぽんと俺に投げて寄越した。
「サンキュ。……でも、寒いだろ?」
「ま、俺にはコイツがあるからな」
コンコン、と片手に持っていた缶コーヒーを指で叩く。自販機の「あったか~い」と書かれたボタンを選んで買っていたそれは、時間が経ってぬるくなっていたはずだった。
「……やせ我慢。これ脱いだら、おっさんの方が薄着のくせに」
「うるせー。こういうのは黙ってありがたく受け取っとくもんなの」
そう言って、ヒューズは缶に残ったコーヒーを啜った。
素直に口に出さないヒューズなりの気遣いを受け取り、ジャケットに袖を通す。ジャケットに残った温もりと、微かに漂うタバコの香りが心地良かった。緩みそうになる頬を押さえていると、ヒューズがにんまりと顔をのぞき込んできた。
「なーにだらしない顔してんだよ。エッチなことでも考えてんのかぁ?」
「んなわけねーだろ! バカ!!」
慌ててジャケットの襟で口元を隠すと、ヒューズはけたけた笑って、残りのコーヒーを呷った。

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